流血のプロローグ第37話。「熱き誓いの夜に」
「1789年7月12日朝、昨日、大蔵大臣ジャック・ネッケル氏が罷免された。そして、愛国者虐殺のデマが飛び、民衆が武装を開始した。パリには、もう昼と夜の区別がない。人々が棒を持ち、ナイフをかざし、路地裏を走りまわる。パリに集められた10万の軍隊がかがり火を焚き、市民を怒鳴りつける。これが新しい時代の胎動なのか。輝ける明日のための何かなのだろうか。わからない。わからないが、見つめようこの時代の節目を。この俺の右目で。もうほとんど見えなくなりかけたこの右目で。」衛兵隊兵舎でアンドレが記している日記で始まる。
たぶん前日の夜、咳で寝付けないオスカルは、ジャルジェ家の侍医ラソンヌを尋ね、「残された日々を精一杯生きたいから」と余命を尋ねる。答えは、「今すぐ退役して療養生活に入らない限り、長くて半年」との事。帰り際に口を滑らせたラソンヌから、「アンドレの失明が時間の問題だ」と聞いたオスカルは、1人頭を抱える。
パリでは市民が武器を自作し、軍隊の監視する中で、自然発生的に集団を形成していた。衛兵隊では すでにA中隊が武装してパリへ出動していたが、兵舎でくつろぐB中隊の兵士にとっては、どこか他人事。 ただしアンドレとアラン以外。
出勤したオスカルは、副官のダグー大佐からA中隊出動の報告を受ける。で、B中隊は巡回を取りやめ待機との事。去り際にダグー大佐はオスカルの体調を気遣い、帰宅、自宅待機を涙ながらに勧める。感じ入るものがあり、オスカルは素直に従う。
一方、アランから隊長がお呼びと言われ、隊長室に行ったアンドレは、無人のデスクに向かってパリの状況を報告し始めるが、視界の回復とともにオスカルが不在である事に気づき、退出する。その様子を部屋の角で見ていたオスカルは、「アンドレ、お前にはもうわたしすら見えないのか」と頭を抱える。先回りしてアンドレと接触したオスカルは、「今日はもう仕事がないから一緒に帰ろう」と誘うが、あろう事にアンドレは、「皆と一緒に兵舎にいる」と断る。が、「屋敷までの道は1人では物騒だから」と手を握り優しい声で囁かれて陥落する。
午後になり、民衆は食料や武器を求めて倉庫を襲い始める。ジャルジェ家ではオスカルの肖像画が完成する。そこには白馬に跨り、マントを翻し、剣を掲げる軍神マルスに扮したオスカルが描かれていた。集まってきた家族の鑑賞と賛辞が終わり、2人きりになった時に、アンドレは見当外れな感想を語り出し、オスカルは泣きながら話を合わせ、ありがとうと何回も呟く。
夕方、アランら2、3名の衛兵隊員がジャルジェ家を訪れ、「明朝8:00、フランス衛兵隊B中隊は戦闘準備を整え、パリ、テュイルリー広場へ進撃、他の連隊と協力し、武装せる暴徒集団を鎮圧せよ」と指令を伝える。ただちに厩舎で馬の支度を整えるアンドレのもとに、ジャルジェ将軍が訪れ、「お前が貴族であればオスカルとの結婚を祝福したであろう、死ぬなよ」と声をかける。どうしてこの親父は、愛し合う→結婚と短絡的に考えるのだろうか。原作では、ジャルジェ将軍がオスカルとアンドレの関係に理解を示すのは、衛兵隊のパリ出動が決まる少し前で、「忘れるな、オスカルはおまえなしには生きられん。おまえはあれの影になれ。光あるかぎり存在をかたちづくる影となって無言のまま添い続けるがいい。」「わたくしは影です。これからもずっと。」と詩的な言葉のやりとりが行われていた。この「光と影」という例えは、長い間ベルばらの象徴の一つとして語り継がれている。
そして兵舎へ向かって馬を走らせるオスカルとアンドレであったが、途中、アンバリッドの武器庫を襲いに行く民衆と遭遇し、アンドレが負傷するが、オスカルに馬ごと引っぱられて逃げのびる。それでも士気の高い民衆を突破するのは難しく、オスカルは一度屋敷に戻って、右目も見えていないアンドレを置いて自分だけ兵舎に戻る提案をするが、「俺は行くよ。今までもそうだったが、これからも俺はお前と共にある。」「私はかつてお前に愛されているのを知っていながらフェルゼンを愛した。そんな私でも愛してくれるのか?」「全てを、命ある限り。」「アンドレ、愛しています。心から。」「わかっていたよ。そんなこともう何年も前から。いや、この世に生を受ける前から。」「アンドレ・グランディエ。あなたがいれば私は生きられる。いえ、生きていきたい。」ここで「オスカルは、アンドレ・グランディエの妻となった」とナレーション。空には満天の星。2人の周囲には、無数のホタルが飛び交っている。尚、2人が脱衣状態になってもずっと立ち姿だったのは、屋外ゆえの衛生上の配慮だったのだろうか。 原作だと出動前夜にオスカルの自室での美しいベットシーンが描かれていたのだが・・。
再びジャルジェ家。父が「生きよオスカル!心の命ずるままに!」とオスカルの肖像画に向かってワイングラスを掲げている。そこへ入ってきた乳母が、オスカルから父宛の手紙を読み上げる。「私ごとき娘を愛し、お慈しみ下さって本当にありがとうございました。」「何を言うかオスカル!まるで本当の別れのようではないか!許さんぞオスカル!」急にテンションが上がる父であった。原作だと、オスカルの父への別れの言葉は、「たとえ何が起ころうとも、父上はわたくしを卑怯者にはお育てにならなかったとお信じくださってよろしゅうございます」だった。これ以上親孝行な別れの言葉が他にあるだろうか。どうして変更しちゃったのかな。
一方、どうやら事を無事終えたらしいオスカルとアンドレは、兵舎へ向かって並んで馬を走らせていた。